コダーイメソッドとは何か?《連載第二回》

 コダーイが私たちに明らかにしたことは,
↓
すべての人が, みずからの民族の音楽的伝統によって音楽する道を歩むとき, その音楽はその人の血となり, 肉となって, 本来すぐれた音楽というものが人間の人格形成に果たす偉大な役割を真に機能させることができるだろう。

 ということである。

〜羽仁協子著『コダーイシステムによる音楽指導の実際』P、1〜

 この文章はコダーイメソッドの本質をひとことで言い表した素晴らしい文章だと思います。‥のですが、あまりにも密度の濃い文であるため素人の私達にはちょっとわかりづらいですよね。

 そこで私は、この文章をもうちょっとわかり易く、細かい要素に分解して書き直してみることにしました。見てください。

【A】すぐれた音楽というものは、本来、人間の人格形成に偉大な役割を果たします。

【B】私達は、その音楽の力が、すべての人にとって血となり肉となって、真に十分に機能するよう努めなければなりません。
【C】そしてそのためには、まず、すべての人がみずからの民族の音楽的伝統によって音楽する道を歩み始めることが大切になります。
 

‥どうですか?こう書くと少しわかり易くなりますね。

 コダーイメソッドは、大雑把に言えば、この3つ事柄(=【A】【B】【C】)が大前提となって成り立っていると考えていいと思います。あるいは、この3つの考え方を出発点として組み立てられている、という言い方もできるでしょうか。

 

つまり、

【A】音楽は単なる娯楽ではない。すぐれた音楽は人格形成に影響を及ぼす大きな力を持っている。だから音楽教育の目的は、このすぐれた音楽を理解できる人間を育てることにある。子ども達には絶対に趣味の悪い音楽を与えてはならない。

【B】すぐれた音楽を理解する力を身につけるには、ただボーッと生きていてはダメである。できるだけ小さいうちからより良い音楽に出会わせ、またより計画的に子ども達の音楽発達を促してゆくようにする必要がある。しかし、その正しい方法さえわかればすべての子どもに例外なくその力を身につけさせ伸ばしていくことができる。それはその子が将来音楽の専門家になるのか?ならないのか?などと言うことには全く関わり無く大切なことである。

【C】子ども達がその音楽教育の一番はじめに与えられるべき〝すぐれた音楽〟とは、その子自身の国(民族)に伝わる伝承の音楽である。芸術的に価値のない流行音楽や外国の音楽を使ったのでは子ども達の健全な音楽発達は望めない。

‥ということになるでしょうか。

  こういったコダーイの基本的な考え方を見て、まず気づくのは、《コダーイはけっして音楽の専門家を育てようとしたのではない》‥ということです。
『音楽はエリートのための娯楽ではなくて, 教養ある人々がすべて公的な財産にしていくべき, 精神的な力の根源である。』

〜1934年「家庭音楽の使命」〜
『音楽は少数の人たちの独占的財産であってはならない。すべての人のものにすべきである。』

〜1954年「音楽教育の改革について」〜

 それは、実はオルフやダルクローズにも共通しているのですが、コダーイはけして音楽の専門教育としてこの教育法を考えたわけではありません。むしろ、音楽を専門としない一般の人も含め、すべての人が音楽の価値を正しく理解できるようになり、それによって健全な人格を育て、そしてより幸福な人生を送れるようになって欲しい、そのような包括的で崇高な理想を持っていたのだと思います。

 しかし、この《専門教育ではない》‥ということが、けしてその音楽教育のレベルが高い?とか低い?とか言うことを意味するものではない、ということは、現在のハンガリーの素晴らしい音楽教育の成果・水準をご存知の方には言うまでもないことですよね。

 この20世紀に, ようやく飛び立とうとしたハンガリーの歌声は,大砲と爆弾の怒号の中に2度まで息の根をとめられた。 もし, わたしたちに, これが3度とは繰り返されないという確信がないならば, 初めからすべてをあきらめたはうがいい。人類は,ほんとうに音楽の価値を知るとき, より幸せに生きることができるであろうとは,わたしたちのゆるぎのない確信である。このことのために働く人は, たとえその道のりは違っても, 意味ある生の営みを残す人である。
        
        コダーイゾルターン

〜コダーイ『ハンガリーの音楽教育』によせた序文より〜

 さて、それではこの【A】【B】【C】3つの理想を実現するために、より具体的にどのようなことが必要になるのでしょうか?

👉(第三回につづく)
 
 

0 comments on “コダーイメソッドとは何か?《連載第二回》Add yours →

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。


*